国内のロードレースの中でも最高峰のレベルの大会「沖縄本島サバイバルラン」。人はこのレースを「沖サバ」と呼び、「沖サバ」を完走することは多くのランナーにとっての大きな目標である。
なぜ「沖サバ」は国内最高峰といわれるほどきついのか?
そもそもこの大会は2013年に開催された「トランスオキナワフットレース(T.O.F.R)」が始まりである。私はこの時に参加したが、ボロボロになって完走した覚えがある(そのときの完走記はこちら)。ちなみに完走率は28%くらいだと記憶している。それから10年、形を変えながら、さらにグレードアップして、今の「沖サバ」がある。
主催者である沖山さんは24時間走の日本代表というランナーであり、その沖山さんがコースや制限時間を考えて大会を作るため、普通のランナーのレベルでは必然的にきつくなる。沖山さんいわく「完走率は3割くらいでいい」と言っており、そのため誰もが完走できることは目指しておらず、設定がきつくなっている。長い距離を走れるランナーや速いランナーも数多くいる。しかし、この大会は距離が長く、制限時間がきついため、持久力+スピードの両方が必要である。ただ、それだけでは完走できない。だから、国内最高峰のきつさと言われているのである。自分で地図を読んで進む、店が無いので補給ができない、二晩を越す、参加人数が少ないため孤独になるなどなど、走る以外の部分がとても大きいため、超長距離の経験値が必要であり、何よりもそれを超えていく人間力、そして完走したいという強い気持ちが必要である。それのすべてを持っているランナーだけがゴールできる大会である。
2023沖縄本島サバイバルラン。通称「沖サバ」
沖縄本島一周、約400kmを72時間で走る。これがどれだけすごいことかは誰もが想像できる。今回はその大会に走友のハセレ選手(女子・40歳代)がチャレンジした。今年も例年どおり、過酷な大会となったが、そんな中、完走したハセレ選手を私なりに分析してみた。
ハセレ選手はなぜ完走できたか。
私の周りには強い女子ランナーが多い。その中でも、今一番強いのでないかと思うのがハセレ選手でる。今までも小江戸大江戸200kmや川の道フットレース500kmなど超長距離の大会を何度も完走しており、距離適性は十分である。ただ、ハセレ選手の課題は制限時間である。特に最初の50km地点6時間30分の関門がきつい。普通に走れれば行ける時間だが、400kmを走ることを考えたときに最初の50kmをこの時間で走ることは、後々のダメージが計り知れない。時間の貯金は脚の借金となることは分かっていても、時間内に通過をして行かなければいけない。残り350kmは自分の脚と時計と相談をしながら進むことになる。走力で進んで行くというよりは、経験値でカバーをして進んで行くことになるのだろう。超長距離を何度も走っており、こんな場面は今まで何度も経験してきたことである。ハセレ選手はそれができる選手である。
ハセレ選手は先月、わざわざ沖縄まで行って、このコースを試走している。なのでコースは熟知している。コースを知っていることは大きなアドバンテージである。スタート前にできることはすべてやって大会に臨んでいるのである。いつもは仮装をして走っているが、今回はそれも封印した。完走への強い気持ちが感じられる。内臓があまり強くないから補給は最小限にした。自分の弱いところをいかに克服するか、進み続けるにはとても重要なことである。こういうひとつひとつのことが完走につながったのではないかと思う。
私はスタート前、百戦錬磨のハセレ選手でも、完走できるかどうかは五分五分ではないかと思っていた。ハセレ選手の強さは分かっているが、それでも沖サバを完走するには十分ではないと思っていたからである。それは本人も分かっていたからこそ、しっかり準備をして、完走したいという強い気持ちで臨んだのであろう。その努力や気持ちが完走という結果につながったことは、本人は満足しているだろうし、私もとてもうれしい。ハセレ選手はビールが大好きだ。早く一緒に祝杯をあげたい気持ちである。